アンリツ株式会社(社長 橋本 裕一)は、携帯端末の評価を行うため、楕円鏡カプラ[※1]を用いた新たなOTA測定[※2]技術を開発いたしました。
楕円鏡カプラは、携帯端末のRF性能[※3]評価で実施される全放射電力(TRP)[※4]と全放射感度(TRS)[※5]のOTA測定を可能とする小型の試験設備です。
携帯電話のRF性能評価は、3GPP[※6]およびCTIA[※7]においてOTA測定が採用され、空間中に放射された電波を用いて携帯端末の全放射電力や全放射感度を測定する必要があります。しかしながら、現状OTA測定を行う場合には、大型の電波無反射室や回転台を用いて長時間の試験を行う必要がありました。
アンリツでは、数年前から楕円鏡カプラを用いたOTA測定の基礎研究を行ってきました。2008年に、本測定法が総務省の「電波資源拡大のための研究開発」プロジェクトに選定されたことから、本格的な研究開発に着手し、この度、楕円鏡カプラを用いたOTA測定技術の開発に成功しました。
楕円鏡カプラを当社のラジオコミュニケーションアナライザMT8820Cと組み合わせて使用することにより、全放射電力と全放射感度のOTA測定が行えます。電波無反射室や回転台を必要とせず、簡易な設備で、各種携帯端末のOTA測定が行えます。また、携帯電話だけでなくRFID[※8]などのアンテナ一体型小形無線機器の性能試験やアンテナの放射効率測定も行えます。
楕円鏡カプラは、アンリツが独自開発した変位法(注)を搭載しており、最適位置では供試器(試験対象機器)から全空間に放射された電波をすべて試験アンテナで受信できます。これにより、電波無反射室での試験では困難だった低レベルのスプリアス放射[※9]が測定できます。さらに、信号の時間変化をリアルタイムで測定できることに加え、電波無反射室では数時間要する試験が数分で完了します。簡易な設備でRF性能を高速・高感度に評価できることから、各種携帯端末の開発効率向上が可能となります。
また、楕円鏡カプラは金属で遮断されていることから電波耐性に優れており、試験中に他の無線システムに影響を及ぼしたり、影響を受けたりする恐れがなく、安心して使用できます。
アンリツは。今後も楕円鏡カプラの完成度向上に努め、新たなOTA測定システムを提案してまいります。
なお、本楕円鏡カプラをマイクロウェーブ展2010(12月8日~12月10日、横浜パシフィコ)にて参考出展いたします。
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注:変位法
楕円鏡カプラを用いたOTA測定では、送受信電波の結合度[※10]が大きいほど、全放射電力や全放射感度等を高精度に測定できます。変位法は、供試器と受信アンテナを楕円鏡の主軸に沿って左右対称に動かしながら送受信電波の結合度を変化させ、最大の結合度が得られるポイントで測定できる技術です。最適位置では100%の結合度が得られ、全空間に放射された電波をすべて試験アンテナで受信できます。
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[ ※用語解説]
[※1] 楕円鏡カプラ
楕円鏡を利用した結合器。楕円鏡はは2つの焦点を持ち、幾何光学では一方の焦点から出た光は鏡面で反射した後、他方の焦点に集まる。電波はこれに準じた動作をすることから、楕円鏡カプラでは送信アンテナから放射された電波を効率的に受信アンテナに集めることができる。
[※2] OTA測定:Over The Air測定
空間を介して電波の送受信で無線機の性能を測定すること。一般的には無線機の測定用端子にケーブルを接続して測定を行っている。
[※3] RF性能:Radio Frequency性能
送信機の送信電力や受信機の受信感度など、無線機の高周波特性
[※4] 全放射電力(Total Radiated Power)
無線機から全空間に放射される電力の総和。無線機の送信性能の指標となる。
[※5] 全放射感度(Total Radiated Sensitivity)
受信機で復調したBERが規定値を割り込む到来電波電力の空間平均。無線機の受信性能の指標となる。なお、CTIA ではTIS (Total Isotropic Sensitivity)と呼んでいる。
[※6] 3GPP:Third Generation Partnership Project
第3世代携帯電話システムの仕様検討や作製を行うプロジェクト。米国のATISや欧州のETSI、日本の電波産業会など各国の標準化機関が参加している。
[※7] CTIA:Cellular Telecommunication and Internet Association 。
無線通信関連の事業者、メーカー、サービス提供業者等で構成される非営利の国際協議会。
[※8] RFID:Radio Frequency Identification
「電波による固体識別」のこと。ID情報を埋め込んだ無線タグと読み取り機の間を無線で情報のやり取りをするもの。
[※9] スプリアス放射
無線機からは基本波のほかに高次高調波が不要波として放射される。これをスプリアス放射と呼ぶ。
[※10] 結合度
送信アンテナから放射された電波を受信アンテナで受信できる量。