ネットワークマスタ プロ MT1000A、5Gモバイルネットワークの開通・保守での同期測定機能を強化
2021/05/19
ローカル5GやO-RAN基地局による5Gサービス普及を支える時刻同期インフラの構築に貢献
アンリツ株式会社(社長 濱田 宏一)は、100Gbpsまで対応した業界最小クラスの測定器、ネットワークマスタ プロ MT1000A(以下MT1000A)の同期測定機能を強化しました。
5Gネットワークでは、高画質映像配信、自動運転、IoT活用によるセンサービジネス、スマートファクトリや遠隔医療など、様々なアプリケーションやサービスの実現が期待されています。本機能強化により、5Gネットワークの普及を支えるうえで重要な技術要素である時刻同期インフラの構築に貢献します。
開発の背景
5G(第5世代通信システム)は、「超高速」「高信頼・低遅延」「多数同時接続」といった様々なシナリオに対応するネットワークとして普及が進んでいます。
5Gで使われるミリ波では上りと下りの送受信タイミングを時分割で切り替えるTDD[※1]方式が採用されます。この方式では全ての基地局が精密に時刻同期していないと干渉を起こし、通信品質の劣化を招きます。
また、来たるIoT社会では個々のデバイスが自身の位置情報を交換しながら協調することが求められます。GPSのような測位衛星の代わりに基地局をベースとした測位技術であるOTDOA[※2]は、IoTに最適で5Gの高精度測位技術として注目されてきていますが、基地局が高精度に時刻同期しないと正確な測位ができません。
基地局間の同期は、これらを結ぶ有線ネットワークに SyncE[※3]、PTP[※4]と呼ばれる技術を適用することにより実現されます。このため、セルサイトの建設・保守においてネットワークの時刻同期性能を測定し、ネットワーク性能を保証することがネットワークオペレータにとって重要になります。
また、O-RANアライアンス[※5]で検討されている基地局のマルチベンダ化の流れの中で、相互接続性担保のために、モバイルネットワーク全体としての時刻同期性能を試験する必要が高まっています。
時刻同期の品質はUTC[※6](協定世界時)との時刻のずれで示されます。測定のために高精度なUTCを得るためには高価な設備が必要となり、多くの場所に敷設されるセルサイトの建設・保守現場での測定は困難でした。
アンリツはSDH/SONETの時代からトランスポートネットワーク向けジッタ・ワンダ測定器を提供し、コア・メトロネットワークの発展に寄与してまいりました。この度、ネットワーク建設・保守用途のための高精度GNSS同期発振器MU100090Bを開発し、ポータブルでバッテリ駆動可能な測定器MT10000Aのモジュールラインナップに追加。ネットワーク建設・保守の測定現場での時刻同期精度の試験をより容易にしました。
新製品概要

MU100090BはGPS、QZSS(みちびき)、Galileo、GLONASSおよびBeidouに対応したGNSS[※7]同期発振器です。各国・地域が運用する衛星測位システムからの信号を受信し、UTCとトレーサビリティのある基準時刻および10MHz周波数信号を時刻同期精度測定の基準タイミングとして出力します。この基準タイミングを、最大25GbpsまでのSyncE、PTP試験をサポートするポータブル測定器MT1000Aに供給し、ネットワークの時刻同期精度を測定します。
また、同時に開発したソフトウェアオプション MU100011A-021 SyncEワンダとMU100090Bを組み合わせることにより、ネットワークが供給するEthernet回線の周波数精度をITU-T規格にそって合否判定することができます。
さらにMX109020A Site Over Remote Accessを組み合わせることで、遠く離れた複数のサイトに置かれたMT1000Aを中央局から一括して遠隔操作・監視することができます。これにより同期障害が発生している個所を素早く特定することができます。
MT1000Aについてもっと詳しく
主な特長
- マルチバンド対応により高精度な測定を実現
GNSSから基準時刻を得るときに生じるノイズ源のうち最大のものの一つに、測位衛星とアンテナの間にある電離層の活動があります。MU100090Bは測位衛星が送信する2つの周波数帯の信号を同時に受信できるため、この電離層誤差を自己補正します。
- マルチGNSS対応によりフィールド測定での利便性を向上
GNSSから高精度な基準時刻を得るには、見通しで補足可能な測位衛星が最低4つ必要です。GPS以外の多種な衛星システムも使うことができれば、好条件な衛星を見通すことができるため、高精度で基準時刻を得るための条件が広がります。マルチパスによる悪影響を避けるためには、できるだけ天頂に近い衛星を使うのが有利です。日本の場合、天頂付近を周回するQZSS(みちびき)の衛星を使うことができます。MU100090BはQZSSを含む多種の衛星を使うことで、正確な基準時刻が得られ利便性が向上します。
- 短時間の準備時間、高安定なホールドオーバー
測位衛星からの信号は外界の影響を受け易く、そこから得られるタイミング情報は短期的に非常に不安定です。MU100090BはGNSSから得られたタイミングを学習、最適なタイミングを推定し内蔵ルビジウム発振器を通して、時刻同期測定に適したタイミングを出力します。
従来製品MU100090Aに比べ、この学習アルゴリズムを見直すことで測定の前提となる安定状態に遷移するまでの時間を4分の1以下に短縮。測定作業の効率化に貢献します。
また、ホールドオーバー安定性を向上させました。地下やスタジアム内部にあるキャビネットなど、測位衛星の見通しのきかない場所での時刻同期試験への利便性を高めました。
- 測定の自動化、遠隔制御
MT1000Aは、当社クラウドサービスMX109020A Site Over Remote Access(SORA、 愛称「ソラ」)を使った遠隔制御、および測定レポートのクラウドストレージへのアップロードに対応しています。このサービスを使うことで離れた複数の測定地点間の結果を比較し、障害個所の特定に要する時間を大幅に短縮できます。
さらに、自動化スクリプト作成ツールSEEKがクラウドアクセスに対応。測定器の設定操作、測定開始、結果判定、レポートの集計までのプロセスを一貫して自動化することができ、作業効率の向上、作業者の負担軽減に貢献します。
対象市場・用途
- 対象市場
- 通信事業者、通信ネットワーク工事会社、通信装置ベンダ
- 用途
- 通信ネットワークの開通・保守・トラブルシューティング、通信装置の簡易評価
用語解説
- [※1] TDD
- Time Division Duplexingの略。ネットワークから端末への下り通信と、その逆の上り通信を決められた時間間隔で切り替えながら通信する方式。同一の周波数帯を両方向で共有するため、帯域の利用効率が高い。
- [※2] OTDOA
- Observed Time Difference of Arrivalの略。複数の基地局が同時に送信した信号を受信した端末が、受信タイミングの時間差から自分の位置を測る測位方式。端末が単独で測位するためネットワークに負荷がかからず、IoTに向いている。
- [※3] SyncE
- Synchronous Ethernet(同期イーサネット)とも呼ばれ、非同期網のイーサネットに対して、通信品質を向上させるために、ITU-Tが規格化した周波数同期に関する規定。
- [※4] PTP
- Precision Time Protocolの略。機器間の時計を合わせるためにIEEE1588v2規格で規定されたプロトコルで、ナノ秒レベルの精度で時刻同期することができる。
- [※5] O-RANアライアンス
- ネットワークオペレータ、通信機器ベンダから成る規格策定団体。基地局をRU(Radio Unit)、DU(Distributed Unit)、CU(Centralized Unit)に分割し、その間のインタフェース公開することで、モバイルネットワーク機器のマルチベンダ化やサービスの迅速な拡張性を促進することを目的としている。
- [※6] UTC
- Universal Time Coordinateの略。世界協定時。
- [※7] GNSS
- Global Navigation Satellite Systemの略。人工衛星を用いた測位システムであり、GPSは米国の運用するGNSSのひとつ。欧州の運用するGalileo、ロシアの運用するGLONASS、中国の運用するBeidouのほかに日本の運用する準天頂衛星システム(QZSS; みちびき)などがある。