光ファイバセンシング(2)
前回の光ファイバセンシング(1)では「ポイント型」について解説しましたが、今回の光ファイバセンシング(2)では光ファイバのすべての位置で測定する「分布型」について説明します。分布型の光ファイバセンシングでは、光ファイバがセンサ機能とセンシング情報の伝達機能の両方を兼ね備えています。
そもそも、なぜ光ファイバ自体がセンサとしての機能を持つのでしょうか?
これは、光がファイバ中を伝搬する際に、ファイバ中の粒子、組成揺らぎ、密度分布などによって散乱が生じて、光の伝搬方向とは逆方向に反射される光の中に情報が入っているからです。この反射光のことを後方散乱光と呼びます。
図1は、後方散乱光のスペクトルと、どのような物理情報が得られるのかを模式的に示した図です。

図1.後方散乱光
後方散乱光の光強度は入射光に対して非常に低い値となりますが、分布型の光ファイバセンシングではこの後方散乱光の微小な変化を読み取って各種のセンシングを行っています。
下の表は、分布型のセンシング方式とその特長についてまとめております。
センシング方式 |
計測種類 |
代表的なアプリケーション |
使用光源 |
1. OTDR*1 |
曲げひずみ |
光ファイバ敷設確認・保守 |
LD, DFB-LD*6、Gain-chip(パルス化) |
2. OFDR*2 |
伸縮ひずみ |
インフラ構造物健全性診断・保守 |
波長掃引光源、Gain-chip(波長掃引) |
3. B-OTDR*3 |
伸縮ひずみ |
インフラ構造物健全性診断・保守 |
LD、DFB-LD(狭線幅光・パルス化) |
4. R-OTDR*4 |
温度 |
プラント/パイプライン温度測定 |
LD、DFB-LD、Gain-chip(パルス化) |
5. DAS*5 |
振動、音響 |
地盤振動、地下構造 |
LD、DFB-LD(狭線幅光・パルス化) |
*1:OTDR:Optical Time Domain Reflectometry
OTDRは測定器の名称でもある。レイリー散乱の強度を測定しひずみ量を解析する。
*2:OFDR:Optical Frequency Domain Reflectometry
OFDRはFMCWとも呼ばれる光干渉法の1つである。レイリー散乱の強度を測定しひずみ量を解析する。
*3:B-OTDR:Brillouin OTDR
B-OTDRは、ブリルアン散乱の周波数シフト量からひずみ量を解析する。
*4:R-OTDR:Raman OTDR
R-OTDRは、ラマン散乱のストークス光とアンチストークス光との強度差から温度を解析する。
*5:DAS:Distributed Acoustic Sensing
DASは、分布型音響計測若しくは分散型音響計測と呼ばれている。レイリー散乱の位相を測定し振動を解析する。
*6:DFB-LD:Distributed Feedback Laser Diode
DFB-LDは分布帰還型レーザダイオードと呼ばれ、導波路に沿って形成された回折格子によるブラッグ反射を利用して、レーザの発振縦モードを単一化したレーザのことをいう。
注)本表のアプリケーションはあくまでも代表例であり、他にもさまざまな分野で活用されております。
次に、分布型の各センシング方式について説明します。
1.OTDR
OTDRは光パルス試験器とも呼ばれ、光ファイバやネットワーク回線の開通時のチェック、敷設工事や保守工事の際の測定に使用されています。具体的には、光ファイバの伝送損失(曲げ損失含む)、断線箇所の検出、融着接続やコネクタ接続の接続損失およびこれらの位置情報などを解析します。図2は、OTDRの測定項目と各々の伝送損失のイメージを示します。

図2 OTDRの測定項目と伝送損失のイメージ
OTDRの測定原理は、被測定光ファイバへパルス光を出射して、光ファイバ中で発生したレイリー散乱光や直接反射されるフレネル反射光が戻ってくる時間差から光強度と位置を算出します。パルス光源には、1.3 µm帯や1.55 µm帯の波長の光を出力するLDやGain-chipが用いられております。
OTDRで測定可能な距離は、短いものでは10 m以下の断線検出ができるものから、長い距離では10000 kmを越える海底ケーブル測定用のものもあり、私たちの通信社会を支えている技術です。
OTDR(光パルス試験器)製品情報はこちら >
2. OFDR
OFDRは、分布型の光ファイバセンシングの中では光干渉を利用した唯一の手法であり、高コヒーレンス性能を持つ波長掃引光源を使用することで、数100 mの範囲で1µε*のひずみ分解能と数cmオーダの空間分解能を持つ高精度な測定ができます。OFDRの測定原理については、デバイス講座「OFDR/波長掃引光源のメリット」で詳細に説明しておりますので、こちらをご参照ください。
*:µε(マイクロストレイン):ひずみの単位であり、1µεは「1 mの長さが1 µm伸縮した変化量」に相当します。
OFDRのアプリケーションは、数100 m範囲の中距離エリアでの動的なひずみ測定に適しており、例えば風車、鉄塔などの構造物、または図3に示すような航空機の主翼などの連続的なひずみ分布の測定があります。

図3 OFDRの測定例 ― 航空機の主翼のひずみ分布測定
このセンシング方式で使用する光源は1.55 µm帯の波長掃引光源ですが、OFDR測定の要求項目に従って光源性能を考慮する必要があります。例えば、空間分解能を高めたい場合には波長掃引範囲が広い光源が適しており、測定範囲を広げたい場合にはコヒーレンス長(=可干渉距離)が長い光源を選択します。
波長掃引光源の製品情報はこちら >
3. B-OTDR
図4は、B-OTDRの構成を示しております。光源から出た光は2分岐後、一方の光は光変調器でパルス化されて被測定光ファイバへと出射されます。光ファイバ内で生じたブリルアン散乱光は、出射方向と逆方向に戻ってきて、最初に分岐したもう一方の光とヘテロダイン検波されます。信号処理により、ブリルアン散乱光の波長シフト量(=周波数シフト量)を解析することで、ひずみ量を算出します。

図4 B-OTDRの測定構成図
B-OTDRは、数10 kmの広い範囲で10 cm程度の距離分解能と100µεのひずみ精度による分布測定ができます。この方式の測定範囲は広いのですが、ブリルアン散乱光の平均化処理を施す必要があるため、測定時間は数分かかります。このため、B-OTDRでは動的な挙動の測定に向いておらず、静的なひずみ分布や変位測定で使用されています。
B-OTDRで使用する光源は、狭線幅のパルス光源が用いられており、比較的光出力の高い1.5 µm帯のDFB-LDが適しております。

図5 B-OTDRの測定例 ― トンネルの変状監視
4. R-OTDR
図6は、R-OTDRの構成を示しております。光源から出た光は光変調器でパルス化されて被測定光ファイバへと出射されます。光ファイバ内で生じたラマン散乱光は、出射方向と逆方向に戻ってきて、分配器によりラマン散乱のストークス光とアンチストークス光に分離されて受光されます。このストークス光とアンチストークス光との強度差を解析することで、温度を算出します。

図6 R-OTDRの測定構成図
R-OTDRは、100 kmの範囲を数mの距離分解能で温度の分布測定ができます。距離や要求精度により、パルス光の出射間隔が異なりますが、B-OTDRと同様に平均化処理に時間がかかるため、リアルタイムな温度測定はできません。
R-OTDRで使用する光源は、パルス光源が用いられており、比較的光出力の高い1.5 µm帯のDFB-LDやGain-chipが適しております。

図7 R-OTDRの測定例 ― パイプラインの温度監視
DFB-LD(分布帰還型レーザ)の製品情報はこちら >
5. DAS
DASは、光ファイバの振動を分布的に測定する手法です。
図8は、DASの測定構成図を示します。光源から2分岐された一方の光をパルス化して出射します。光ファイバからのレイリー散乱光をもう一方の光でヘテロダイン検波し、位相変動(=振動情報)を解析して振動データとして算出します。

図8 DASの測定構成図
このセンシング方式は、数10 kmの範囲を10 kHzの高速なサンプリングができるため、車の交通量解析や地下設備の保守などの振動計測、シェールガスやオイル採掘時の水圧破砕モニタリング、 または地震計測など幅広い分野で活用できます。DASで使用する光源は、狭線幅のパルス光源が用いられており、比較的光出力の高い1.5 µm帯のDFB-LDが適しております。

図9 DASの測定例 ― 交通量の測定・分析(地中に敷設した未使用ファイバ=Dark fiberを活用)