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光デバイス講座

光ファイバセンシング(1)

光ファイバをセンサとして活用する技術は、30年以上前から開発されてきました。この講座では光ファイバセンサを応用した計測技術を光ファイバセンシングと呼びますが、この光ファイバセンシングは下記に示すような利点があり、電気式センサの問題を解決する手段となります。

光ファイバセンシングの利点

  1. センサ部への電源供給が不要
  2. 遠隔地の検知が可能(センシング方式に依る)
  3. 電磁ノイズの影響を受けない
  4. 落雷に強い
  5. 防爆である

この光ファイバセンシングの応用範囲はとても広く、例えば、歪や変位といった物理量を計測することで「橋梁や建物など建築構造物の健全性診断」、「風車や送電線の監視」、「空港などの重要施設のセキュリティ」、また電流や振動といった物理量を計測することで「送電量の監視」、「工業設備の保全・監視」などさまざまな分野で活用されております。

橋梁
太陽光パネル 風力発電、水力発電

この講座では、さまざまな光ファイバセンシングとその特長、センシングに必要な光源について解説します。

光ファイバセンシングには、大別して「ポイント型」「分布型」の2つがあります。

  • ポイント型とは、光ファイバ線路上にセンサとして機能する特殊な加工部分を施したもので、代表的なものとしてFBG(Fiber Bragg Grating)センサがあります。
  • 分布型とは、光ファイバ線全体をセンサとして機能させる技術で、光ファイバの断線・損失の有無とその位置を測定するOTDRや、光ファイバに光を通過させたときに生じる後方散乱光の情報を読み取るR-OTDR、B-OTDRなどがあります。

今回の光ファイバセンシング(1)では、ポイント型の光ファイバセンシングについて解説します。

下の表は、ポイント型のセンシング方式とその特長についてまとめております。

センシング方式 計測種類 代表的なアプリケーション 使用光源
1. FBGセンサ ひずみ量(伸縮)、温度 構造物診断、セキュリティ 波長掃引光源、Gain-chip, SLD*1
2. BOF*2センサ 温度、圧力、振動 温度計、圧力計 SLD、LED
3. ヘテロコア光ファイバセンサ 屈曲(変位、歪、温度等) 水位計、圧力計、振動計 SLD、LED、LD、DFB-LD*3
4. 電流センサ 電流 電流センサ SLD
5. ファラデ―効果の応用型 変位 雨量計、防災、水門開閉 LD

*1:SLD:Super Luminescent Diode、SLEDとも呼ぶ
*2:BOF:Band pass filter On Fiber end
*3:DFB-LD:Distributed Feedback Laser Diode

注)本表のアプリケーションはあくまでも代表例であり、他にもさまざまな分野で活用されております。

次に、ポイント型の各センシング方式について説明します。

1. FBGセンサ

FBGセンサとは、光ファイバの1部分に周期的なグレーティング(回折格子)加工した光学フィルタの1種です。図1は、FBGセンサの原理を示します。ファイバの一端から波長掃引光やSLDのようなブロードな波長広がりを持つ光を入射させると、FBGセンサ部分で特定の波長の光(これをフィルタ波長と呼びます)のみ反射され、それ以外の波長の光は他端へと透過します。

図1 FBGセンサの原理
図1 FBGセンサの原理

ここで、FBGセンサに物理的な伸縮や温度変化が生じると、それに応じたFBGセンサのフィルタ波長が変化することから、この反射光の波長を測定することで物理量がわかります。フィルタ波長が異なるFBGセンサを直列に複数つなげることで、多点計測ができることが特長です。FBGセンサの測定方式は、SLDに代表される白色光源+分光器のタイプと、より高精度な波長掃引光源+受光器のタイプがあります。

FBGセンサモニタ情報 - 株式会社オプトクエスト ウェブサイト >

図2 FBGセンサの測定例 ― 空港のセキュリティ
図2 FBGセンサの測定例 ― 空港のセキュリティ

2. BOFセンサ

BOFセンサは、図3に示すように光ファイバ先端に誘電体多層膜を付けたもので、青縞の部分がセンサとなります。センサ部分に熱を加えると、屈折率が高くなり反射率のスペクトルは長波長側へ変化します。また、センサ部に圧力を加えると、物理的に膜厚が薄くなるため、短波長側に変化します。この波長の変化量:Δλから物理量を求めることができます。
多点計測の場合では、光源をパルス化して各センサ間に距離差を設けて識別することで、複数個所の同時測定ができます。

図3 BOFセンサの原理
図3 BOFセンサの原理

BOFセンサを使用したセンシングは、湿度が高いなどの厳しい環境下での測定に適しております。光源にはSLDやLEDなど比較的スペクトルが広いデバイスが用いられますが、ファイバ集光性や多点測定の場合には光量が大きいSLDが最適です。

図4 BOFセンサの測定例 ― 発電機の偏心、振動、面ぶれの測定
図4 BOFセンサの測定例 ― 発電機の偏心、振動、面ぶれの測定

3. ヘテロコア光ファイバセンサ

ヘテロコア光ファイバセンサは、図5に示すようにコア径の細い部分=ヘテロコア部を形成し、この部分に曲げが生じると光量のロスが増すことから物理量を求めることができます。従来、光ファイバセンシングでは静的な物理量を測定する際に温度補正が必要ですが、この方式では温度変化の影響を受けないため、「温度補正なし」でセンシングができることが大きな利点となります。

図5 ヘテロコア光ファイバセンサの原理
図5 ヘテロコア光ファイバセンサの原理

ヘテロコア部の湾曲を活用させることで、変位センサ、歪センサ、水位センサ、加速度センサといった多種の物理量のセンシングができます。また、このセンシングは物理量を光量差で測定できるため、光ファイバに入射できて光出力が安定したデバイスであればLD、LED、SLD、DFB-LDなど、いずれのデバイスでも使用することができ汎用性が高い方式です。

ヘテロコア型光ファイバ情報 – 株式会社コアシステムジャパン ウェブサイト >

図6 ヘテロコア光ファイバセンサの測定例 ― ダムの水位監視
図6 ヘテロコア光ファイバセンサの測定例 ― ダムの水位監視

4. 電流センサ

電気式の電流測定では多数の方式が開発されておりますが、光ファイバセンシングによる電流センサのメリットは、電磁誘導ノイズの影響がなく、小型・軽量であることです。これは、光ファイバ自体が絶縁体であるため、電気式で必要となる絶縁対策にかかる重量や大きさを削減できるからです。また、光ファイバの巻径を大きくすることで、大口径化へも容易に対応できます。
電流センサは、図7のセンシングファイバ部に示すように、電流を測定する導体に巻かれています。このセンシングファイバ部の一端にはミラーが設けられて、伝搬してきた光を折り返す構成となっております。電流センサの原理は、まず入射光が偏光板1で直線偏波光となり、センシングファイバ部を通過してミラーで折り返され、さらに光カプラで偏光板2へ導かれます。導体に電流が流れていない状態で、偏光板2の透過率が最大となるように角度を調整します。ここで、導体に電流を流すと、磁界Hに比例して偏光角αで直線偏波の角度が変わり、偏光板2を透過する光量が減ります。従いまして、出射光の光量から電流値を測定できます。

図7 電流センサの原理
図7 電流センサの原理

電流センサ用の光源は、LD、SLD、ASE光源またはガスレーザなどが用いられておりますが、比較的出力が高く干渉雑音が低減できるSLDが適しております。

図8 電流センサの測定例 ― 発電所/変電所や強電工事の監視
図8 電流センサの測定例 ― 発電所/変電所や強電工事の監視

5. ファラデ―効果の応用型

最後に紹介するのは、光ファイバの先に偏光板とファラデ―素子と呼ばれる磁性体、および磁石を付加してセンシングする例です。原理的には全て空間光でも可能ですが、現実的には光ファイバにより装置からセンシング箇所まで遠隔測定しておりますので、光ファイバセンシングの1例として紹介します。
図9は、ファラデ―センサの原理図です。ファラデ―素子が受ける磁界の強さに従い、ファラデ―素子の透過光の回転角が変わり、これが偏光板と呼ばれる複屈折素子を通るときに光の強弱に変換されます。

図9 ファラデ―センサの原理
図9 ファラデ―センサの原理

磁石位置の構造的配置により、雨量計、洗堀・落石などの防災センサまたは水門の開閉の検知センサなどに応用できます。
このセンサの測定装置には、光ファイバの伝送損失や断線箇所の測定に用いられるOTDR(光パルス試験器)が使用できますので、センサ部分を用意できればセンシングシステムが構築できます。

OTDR(光パルス試験器)製品情報はこちら >

図10 ファラデーセンサの測定例 ― 水門の開閉監視
図10 ファラデーセンサの測定例 ― 水門の開閉監視

今回紹介したポイント型の光ファイバセンシングでは、これ以外にもサニャック効果を検出原理とした姿勢制御用センサ※や、ポッケルス効果を検出原理とした電場センサなどさまざまな方式があります。

※ FOG=Fiber-Optic Gyroscope、光ファイバジャイロとも呼ばれています。

アンリツでは光ファイバセンシング用の光源を各種取り扱っておりますので、SLD, DFB-LDおよび波長掃引光源の製品情報につきましては、「産業用光センシング」からご参照ください。また、ご相談やご質問がございましたら、お問い合わせ窓口からご連絡ください。