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デバイス開発ヒストリー

デバイス開発ヒストリー

高速電子デバイス(2)~MMICグループの発足~

MMIC開発のきっかけ

ハイブリッドICは半導体IC、キャパシタ・抵抗・コイルなどの電子部品を基板上に実装し、1つのユニットにモジュール化したデバイスです。高密度、高周波化が可能で品質向上も期待できるため、当社でも計測器用デバイスとして1970年前後から開発をスタートしました。ハイブリッドICには印刷技術を応用した厚膜タイプと、蒸着やスパッタリングで製膜される薄膜タイプがあり、計測器の小型高性能化に貢献するとともに、高周波信号のロスを極力低減することで高機能化してきました。しかしキーデバイスである半導体ICは外部から購入せねばならず、高性能・高機能化のボトルネックとなっていました。半導体ICは一般的には汎用LSI/CPU/メモリといった集積回路として広く使われており、殆どがシリコン(Si :ケイ素)基板を使用したものです。シリコン基板は単一元素でできているため、大型基板が低コストで入手可能なことが最大のメリットで量産向きです。計測器用ICは最先端の高周波動作が要求されるため、基板材料をシリコンから複数の半導体元素からなる化合物に変更したICが必要となります。しかし、化合物半導体基板は結晶欠陥が生じやすく基板の大型化が困難なため量産には向かず、コストが高くなります。そのうえ計測器用途では大量消費が望めず開発・製造するメーカーは多くありません。

半導体の物理定数
  熱伝導度(10-6/K) 移動度(cm2V-1s-1 絶縁破壊電界(MV/cm)
Si 1.3 1500 0.3
GaAs 0.55 8500 0.6
InP 0.68 5400 -
GaN 2.0 1200 2.6
4H-SiC 4.9 1000 2.8
動作周波数と出力電力に関する半導体材料の棲み分け
動作周波数と出力電力に関する半導体材料の棲み分け

一方、高周波動作に必要な信号処理速度を決定する電子移動度(電子の動く速度)はインジウムリン(InP)、ガリウムヒ素(GaAs)はシリコンより数倍速く、高周波デバイス用IC製作には適しています。特にインジウムリンでは電圧印加時の最大電子速度が大きく、ガリウムヒ素を上回る動作周波数が期待でき、より高い周波数で使えます。このほか化合物半導体は絶縁強度が大きく高出力向きのものや、低消費電力向けなど材料の選択によりそれぞれ優れた特長を有しています。MMICはモノリシックマイクロ波集積回路の略で、特に高周波用に設計されたICを指し、多くの場合は化合物半導体基板が採用されています。

当社計測器の2 Gbit/sパルスパターン発生器や初期のマイクロ波通信機用ハイブリッドICは市販のMMICチップを搭載して実現しました。しかし動作周波数が10 Gbit/s、40 Gbit/sといったより高速かつ高機能MMICが必要になると、入手が難しくなっていきました。購入品は突然の製造中止や、品質トラブルの解明が困難になるリスクが生じる可能性もあります。このため、以前からMMICの内製化を熱望していましたが、IC設計と製造を同時に立ち上げるには時間が必要なこと、ランニングコストも含めた大きな投資判断や技術獲得が難しいことなどから着手を躊躇していました。その頃、化合物半導体の開発製造をしていた会社が事業撤退する情報が入りました。この会社の事業内容が我々の希望に近かったこともあり、1999年にこの事業グループの一部が正式に我々に合流する運びとなりました。

MMICグループの発足

厚木工場に専用のクリーンルーム(CR)を建設するところから始まり、ゼロからスタートする大型プロジェクトになりました。2000年のCR完成後にステッパ、イオン注入装置、各種成膜装置、エッチング装置など一連の設備を移設し、各設備の性能を確認して本格稼働したのは2001年です。半導体プロセスは大量の水や有機溶剤を消費するため、クリーンルーム内の設備だけでなく排水処理など関連設備および、関係省庁への手続きなどにまで影響が及びますが、関係者の尽力により垂直立ち上げを実現しました。

代表的な高速化合物系トランジスタにFET(電界効果トランジスタ)とHBT(ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)があります。詳細は割愛しますが、前者はゲート電圧を制御することでソース、ドレイン電極間の電流を制御するトランジスタで、その発展型はHEMT(高電子移動度トランジスタ)として有名です。後者はバンドギャップが違う半導体を用いることで高い電流増幅率と動作周波数を実現したデバイスです。高い周波数で動作が必要となる計測器向けIC製作との相性を考慮して、当社では後者のHBTを基本トランジスタとして採用し、高速化と集積化に開発リソースを集中しました。

合流以前も化合物ICを扱っていましたが、その動作周波数は800 MHz~1.5 GHz帯の製品が中心であるうえ使用トランジスタがFETであり、我々が狙っていた計測器用ICとは要求される周波数に大きな乖離とトランジスタの違いがありました。そこで当社ではHBT技術の導入や経験者の採用などの補強を行い、より基本性能の高いHBT開発を進めました。基盤となる化合物半導体の技術と量産技術の両方を保有していたこともあり開発とICの試作は急ピッチで進み、信頼性確認も終えたICを早期に成果物として事業部門へ提供することに成功しました。2003年からGaAs HBTを採用したクロック分岐、マルチプレクサ、デマルチプレクサなどのMMIC群が12.5 Gbit/s 計測器に搭載され始めました。

初期の自社製MMIC製品
初期の自社製MMIC製品
エアブリッジとビアホール

動作周波数が40 Gbit/s以上に達すると、GaAsよりもさらに高速で動作するInPを使ったプロセスが必要になります。材料系が変わるとそれまでの製造プロセスの変更が必要とされるため、早めの開発着手が必要です。確認事項はエッチング制御、イオン注入、樹脂材料による平坦化プロセスなど多岐にわたります。また、周波数が高くなると従来のプロセスも難易度が上がります。絶縁層や半導体に孔をあけて、配線間を貫通して表裏面の電極を接続するビアホール(Beer HallではなくVIA Holeです)の形成技術、電極を空中で接続することで他の電極を超える技術、または段差をショートカットして最短の配線を実現するエアブリッジ構造などの技術も必要です。さらにこれらの個別プロセスをウエハ内で同時に実現することも難易度が高くなります。当社ではこれらの問題をひとつずつクリアしていき、2008年にInP HBTを採用したMMICが25 Gbit/sのビットエラー測定器に搭載されました。これ以降の製品は大部分がInP HBTプロセスに移行し、計測器へのMMIC搭載数も増加の一途を辿りました。現在では各種ドライバアンプ、マルチプレクサ、デマルチプレクサ、クロック分岐、フェーズシフタ、O/Eコンバータなど多岐に亘っており、きれいな高周波波形を出力するキーデバイスとして測定器ビジネスのコア技術を支えています。

アンリツデバイスの発足

以前から製造販売していた光デバイス事業が比較的順調に推移していたこと、およびMMICチーム発足により高速デバイス内製化の見通しが立ったことで、将来的な通信需要増加に伴う業績向上が期待できるようになりました。このため、2003年10月にアンリツの100%子会社となるアンリツデバイスが発足する運びとなりました。これにより関連部門が集結し、いよいよデバイス事業に本格的に取り組む体制ができあがりました。我々は進化を続ける通信市場に連動し、より高速なデバイスを実現することでスマート社会の発展をサポートしてまいります。