光変調器ドライバアンプと半導体材料
光通信では光変調器を用いて信号光の強度や位相を変化させることで光に信号を乗せています。光変調器は印加される電圧で光の大きさや位相を変化させることができるので、電気信号を光信号に変換することができます。
図1に光変調器を用いた光信号送信部のブロック図の例を示します。半導体レーザから出力した無信号状態のCW光が光変調器に入力され、ドライバアンプから出力された電気信号でCW光を光信号に変換します。電気信号で光変調器を駆動するためには、大きな電圧の電気信号が必要なので、光変調器を駆動するために高出力のドライバアンプが使用されます。国際的に定められる新たな通信規格では、通信速度がますます高速化しており、ドライバアンプには高出力でかつ高速に動作する特性が求められます。例えばIEEEで新たに規格化された400GBASE-DR4では、ドライバアンプに求められる動作周波数は40GHz以上、出力電圧は1Vpp~3Vpp程度となります。

図1 光信号送信部のブロック図
半導体材料としては大規模集積化、低コスト化が可能なシリコンが市場では最も使用されていますが、シリコンは高速動作と高出力特性を両立するのが困難なため、ドライバアンプの半導体材料としては適していません。一般的にドライバアンプには2種類以上の元素で構成される化合物半導体が適しています。化合物半導体は電子移動度が高く、バンドギャップが大きいため高速/高出力が求められるドライバアンプに適しています。また元素の組み合わせや組成比の異なる化合物半導体材料を積層することでHEMT(High Electron Mobility Transistor)やHBT(Heterojunction Bipolar Transistor)などの高速な構造のトランジスタを実現できる利点もあります。化合物半導体の代表的なものとしてはGaAs(ガリウムヒ素)、InP(インジウムリン)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、GaN(窒化ガリウム)などがあります。
図2はアンプに使用される半導体材料の動作周波数(横軸)と出力電力(縦軸)についての棲み分けを表した図の一例です。光通信のイーサネット規格には100ギガビットイーサネット、400Gギガビットイーサネット、現在規格化が検討されている800ギガビットイーサネットなどがありますが、上記通信規格で使用されるドライバアンプに適した半導体材料としては右下に赤丸で囲んだエリアのGaAs、InP、SiGeがあります。
それぞれの特徴として、SiGeは汎用的なシリコンの半導体プロセスを使用できるため、大口径化が可能であり低コストで製造できますが、高出力化が困難という問題があります。GaAsは高出力化、高速性に優れ光通信システムで多く使用されていますが、今後通信速度が拡大したときの、例えば動作周波数70GHz以上が必要とされる800ギガビットイーサネットへの対応が困難です。InPはGaAsよりも高速なトランジスタを実現でき、今後通信速度が拡大したアプリケーションにも対応できるため最先端の光通信用ドライバアンプの半導体材料として最も適しています。InPを用いたトランジスタとしてはInP HEMTとInP HBTがあります。いずれも材料特性を生かして優れた特性を備えていますが、InP HEMTは耐圧を確保するのに極めて高度な技術を要するのに対し、InP HBTはダブルヘテロ構造により耐圧の確保が容易という長所があります。
当社では長年培ったInP HBTプロセス技術を保有しており、本プロセスで製造した光変調器ドライバアンプを提供しています。

図2 動作周波数と出力電力に関する半導体材料の棲み分け
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