Skip to main content
デバイス開発ヒストリー

デバイス開発ヒストリー

光デバイス(4)~各個別デバイスの進歩2~

3. SLD

半導体レーザ(LD: Laser Diode)は狭いスペクトル幅かつ、高い光出力で発光します。干渉計側用に高コヒーレンス光源を使うと干渉信号が広く出るうえ、複数の信号が重なると各反射点の特定が困難になり、雑音発生の可能性もあります。このため光センシング用途では広いスペクトル幅で低コヒーレンスな光源が望まれます。低コヒーレンスな光源はデバイス端面の反射率を下げて発振を抑え、スペクトル半値を広げることで実現できます。この半導体光源をスーパールミネッセントダイオード(SLD: Super Luminescent Diode)といい、光ファイバジャイロ(FOG)や干渉計などに使用されています。

端面反射率は下図(a)のように、両発光端面に誘電体膜による無反射(AR)コーティングをすることで抑圧できます。当初の窒化膜による簡易的なARコーティングから始まり、電子ビーム蒸着、さらにスパッタ膜へと進化しました。しかし、コーティングだけでは十分な低反射率が得られないため、下図のような裏面側の反射防止構造や、活性層を端面に対して斜めに入射する斜め導波路などが採用されました。GaAsを基板とする0.8 µm帯と、InPを基板とする1 µm帯の製品では細部には違いがあります。大きな残留反射率がある場合、波長スペクトルは下図(1)のように多モードになりますが、ARコーティングと構造によるトータルの端面反射率の低下に伴って、下図(2)~(3)のようにリップル成分の少ない滑らかな形状に変化します。

さまざまな反射率低減構造

さまざまな反射率低減構造

残留端面反射率によるスペクトル変化

残留端面反射率によるスペクトル変化

励起用LD同様、SLDの活性層もバルク構造でスタートしました。バルク構造でも素子長を伸ばせば光出力は容易に大きくなるのですが、波長帯域はそれに応じて狭くなります。非常に薄い組成の違う半導体層を複数積み重ねる量子井戸構造は、逆に低出力だが広帯域になる傾向があり、出力と帯域のバランス調整ができます。従って量子井戸構造の導入によりトータル性能の改善に成功しました。当社は測定器メーカですので、計測用光源としてSLD開発には長い歴史があります。既に実用化されている光ファイバジャイロ(FOG)などセンシング分野では広くご利用いただいています。カーナビが普及し始めたころFOG方式が高級車用に採用され、当社のSLDが搭載されたこともありました。その後は主に精度が要求される航空機やヘリコプタの回転角度検出用として利用されています。近年は建設機械や農業機械および搬送システムの自律運転用として高精度のFOGが脚光を集めています。

4. SOA

半導体光増幅器(SOA: Semiconductor Optical Amplifier)は入力信号光を増幅できSLD同様、素子の端面反射率を下げることで実現できます。信号光は素子の両側から入出力する必要があり、モジュール製品のパッケージの両側に光ファイバが固定される形状的な特徴があります。ファイバ増幅器に比べて圧倒的に小型で光集積が可能であるうえ、高い機能性があります。下図は1990年代に作成した初期のSOAモジュールとその電流利得特性の例です。駆動電流がない時、SOAの活性層は光信号波長に対して大きな損失を持ちますが、電流の増加に伴い急激に損失が減少し利得を持つようになります。このためSOAは駆動電流の制御により、高い消光比を持つ光スイッチとして動作します。開発当初は意図的に利得を抑えて、無損失~低利得の光交換機用ゲートスイッチとして設計されました。ナノ秒程度の速度で動作し、今でも波長可変光源モジュールで同様の需要があります。

半導体光デバイスは基本的に利得の偏波依存性があります。利得偏波依存性を抑圧するには、活性層に歪を導入すれば良いことが知られています。つまり、積層する活性層材料の結晶格子の大きさを、基板材料と意図的に変えることで実現します。当社でも試作を行い、成果を国際学会でも報告しました。本デバイスは幸いにも研究機関などからお問い合わせをいただき、研究開発用としてご活用いただきました。下図の通り偏波無依存のアイソレータを両側に内蔵するため、一般のバタフライモジュールより長いのが特徴です。しかし、当時の技術と装置では歪量を正確かつ均一に制御することが困難でした。さらにプロセス中に発生する歪でも特性が変化するなど、歩留りと再現性に課題があり正式な製品には至りませんでした。その後、研究開発用ニーズも下火になりSOA開発は中断せざるを得なくなりましたが、2010年代になって光トランシーバ用にSOAが再び注目され開発再開されました。現行SOAは初期製品の開発経験が活かされるとともに成長技術と装置の進歩もあり、低電流で高い偏波無依存利得を持つ量産製品に成長し、広くお使いいただいています。

初期のSOAモジュール
初期のSOAモジュール 特性例
初期のSOAモジュールと特性例

5. ゲインチップ

光通信市場が発展期を迎えるにつれ当社の光測定器のラインナップが拡充されていく中で、波長可変光源が必要とされました。それまでの安定化光源は固定波長で特定の波長だけを出力しますが、この測定器はレーザ光を広い波長範囲に亘って出力できます。例えばフィルタなどの光学部品の波長特性を測る場合、白色光源を用いる方法より波長あたりの出力が大きく、広いダイナミックレンジで測定できます。また、掃引を止めて所望の波長で伝送特性を測定できます。下右図は製品化された波長可変光源の基本構成で、リットマン型の外部共振器系を有しています。回折格子の0次反射光を第1出力光に、ゲインチップの他端からの出力は第2出力となります。発振波長は回折格子で選択された波長で決定されミラーの角度を変えることで発振波長を変えることができます。ゲインチップの端面反射率は片端が無反射、他端は光源構成により高反射または少し反射率を残した低反射となります。このデバイスもSOAと呼ばれることもありますが、当社ではレーザ発振用途をゲインチップ、入力信号光の増幅用途をSOAとして区別しています。活性層の内部構造は基本的にLDと同じですが、広い利得帯域が必要になる点で違いがあります。そこで活性層の量子井戸層数と素子長の組合せを何通りも試作して、高い光出力を広い発振波長に亘って出力できるようにパラメータを決定しました。本来は社内計測器用に開発したデバイスですが、社内計測器が製造中止となった後も、他社用の同じ計測器および通信用の波長可変光源モジュールなどにご利用いただいています。外部共振器で使用する光学フィルタとしては回折格子のほか、シリコン光導波路によるリングフィルタを用いたシリコンフォトニクスや液晶フィルタなど多岐にわたり、構成も各社さまざまです。当社のゲインチップはその基本性能と対応力から多くのお客様から高い評価をいただいています。

波長可変光源 / 外部共振型波長可変光源の基本構成

当社の光デバイスは光計測器用のキーデバイスを自社調達する目的でスタートし、あと数年で半世紀を迎えようとしています。資本力に優れた大手メーカに対して、我々は限られたリソースの中で独自の光デバイス製品を手掛け、地道な発展を遂げてきました。これからも自社ラインによる一貫生産を強みとして、お客様満足の向上をめざしてまいります。