優先する事業拠点の分析と特定
アンリツグループは、TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)※1のLEAPアプローチ※2における「Locate:自然との接点の発見」に基づき、生物多様性上の要注意地域と事業上の重要地域の両面から事業拠点ごとの分析を行い、優先して対応する事業拠点を特定しました。
〈2024年度 評価内容〉
※1 TNFD:2021年に国連開発計画(UNDP)等の機関により設立されたタスクフォース。2023年9月、TNFDは、企業や金融機関等が自然関連課題を特定・評価・管理して開示するための提言を公表した。TNFDは企業等の情報開示を通じて、自然に負の影響を与える企業活動や資金の流れを良い影響を与える流れに転換させることを目的としている
※2 LEAPアプローチ:TNFDが開発した、企業や金融機関などが事業活動における自然への依存と影響、リスクと機会を評価・開示するためのフレームワーク。Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の4つのステップで構成される
自然への潜在的な依存とインパクトの整理
アンリツグループは、国連環境計画(UNEP)などが開発した「ENCORE」※3を用い、バリューチェーン全体および自社の事業活動(直接操業)における自然への依存と影響を評価しました。
事業との関連においてポイントとして捉えた依存と影響
| バリューチェーン全体 | 特に上流の原料調達に関わる工程で、自然への依存や影響が大きい |
| 水資源では、上流から直接操業にかけて自然への依存度が高い | |
| 温室効果ガス排出は、直接操業に加え、バリューチェーンの上流・下流でも自然への影響が大きい | |
| 外来種に関して、製品の輸送や廃棄物処理において自然に影響をおよぼす可能性がある | |
| 直接操業 | 製造(工場)は、森林や河川などが持つ洪水や暴風雨の緩和機能に依存している |
| 製造では水資源に依存しており、特にセンシング&デバイス事業において依存度が高い可能性がある | |
| 大気汚染物質や土壌・水質への有害汚染物質が万が一漏出した場合、自然への影響が大きくなる可能性が高い |
※3 ENCORE:国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンターが中心となって開発したツール。企業活動が自然にどの程度依存しているか、またどの程度影響を与えているかを分析し、リスクや機会を把握するために使用される
想定される事業リスクとアンリツの対応
アンリツは、潜在的なリスクが想定される事業活動、リスクの発生場所、現時点での対応の有無を把握しました(下表参照)。
自然への依存により発生するリスク
| カテゴリー | 事業における自然への依存 | 自然が経済・社会活動にもたらす恩恵 | 恩恵の低減により経済・社会が受ける影響 | 事業リスクとその発生場所 | アンリツの既存対応 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 物理的リスク※4 | 慢性 | 水資源 | 水資源の供給 | 水供給量の減少、水不足 | 【上流】新たな水源開発が必要となることにより、生産期間が長期化し調達コストが増加 | なし |
| 【直接操業】水を比較的多く使うデバイス製品の生産が停滞 |
|
|||||
| 気候調整 | 自然による気候の調整作用 (土壌や植物による温室効果ガスの長期貯蔵を通じて気候が調整される) |
気候の変化、特に夏季の気温上昇 | 【上流】労働生産性の低下に伴う生産原価上昇による調達コストの増加 |
|
||
| 【直接操業】気候変化に合わせて空調を使用することによる電力コストの増加 |
|
|||||
| 急性 | 洪水緩和 | 植生が洪水の被害を緩衝・減衰させる作用 | 洪水や風水害の激甚化・高頻度化 | 【上流】生産期間の短期化や生産地の変更などに伴う調達コストの増加 | なし | |
| 【直接操業】生産期間の短期化および対策設備の増設による操業コストの増加 |
|
|||||
| 【下流】インフラ損傷や通行止めなどによる配送の遅延、輸送ルート変更の高頻度化によるコストの増加 | なし | |||||
| 気候調整 | 自然による気候の調整作用 (土壌や植物による温室効果ガスの長期貯蔵を通じて気候が調整される) |
風水害の激甚化や浸水被害 | 【上流】浸水被害による生産の停滞 |
|
||
| 【直接操業】浸水被害による生産の停滞 |
|
|||||
自然への影響により発生するリスク
| カテゴリー | 事業による自然への影響 | 経済・社会活動による自然との関わり | 事業リスクとその発生場所 | アンリツの既存対応 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 移行リスク※5 | 評判 | 土地利用 | 陸域、淡水域、海洋域の土地利用による自然の改変 | 【上流】採掘活動により生物の生息地の劣化や分断が引き起こされた地域の資源を調達することによるブランドイメージの低下や不買運動 |
|
| 【直接操業】事業敷地の緑地を活用した地域生態系の保全を行わないことによるブランドイメージの低下、ステークホルダーとの関係悪化 |
|
||||
| 外来種の導入 | 侵略的外来種の越境移動 | 【下流】外来種対策に後ろ向きな輸送業者や廃棄物業者を使用することによるブランドイメージ低下 | なし | ||
| 政策 | 温室効果ガス排出 | 温室効果ガス排出による気候への影響 | 【上流】温室効果ガス排出の規制強化や排出量削減への社会的要請の高まりに対応するためのコストの増加 |
|
|
| 【上流】温室効果ガス排出の規制強化や排出量削減への社会的要請の高まりに対応するためのコストの増加 |
|
||||
| 【下流】運送業者による温室効果ガス排出量削減対策強化に伴う製品の輸送コスト増加 |
|
||||
| 土壌・水質への有害汚染物質 | 有害汚染物質の排出 | 【直接操業】土壌・水質汚染物質の規制強化や汚染防止への社会的要請の高まりに対応するためのコストの増加 |
|
||
| 土地利用 | 陸域、淡水域、海洋域の土地利用による自然の改変 | 【上流】生物多様性上重要なエリアの土地利用規制に起因する部品生産停滞 | なし | ||
| 【直接操業】緑化基準の強化や、進展する国内外の生物多様性保全施策に伴う社会的責任の拡大への対応コストの増加 |
|
||||
| 技術 | その他の非生物資源 | 金属や鉱物など、生物由来以外の資源利用 | 【直接操業】資源の再生利用や循環利用など、 環境負荷低減に貢献する製品やサービス開発のためのコストの増加 |
|
|
※4 物理的リスク:自然の劣化と、それに伴って自然が経済・社会にもたらす恩恵が低減することにより生じるリスクのこと。急性(短期的で特定の事象の発生によるリスク)と慢性(時間の経過とともに徐々に生じる自然の状態の変化によるリスク)に分けられる
※5 移行リスク:自然を復元させるなど、自然に対するマイナスのインパクトを軽減させることを目的とした行動に、各主体間で不整合が起きている場合に組織に生じるリスクのこと。例えば規制や政策、技術、投資家心理、消費者の考え方の変化によって引き起こされる可能性がある。ここには評判リスク、政策リスク、技術的リスクなどがある
自社の事業活動(直接操業)における優先して対応する地域の分析
TNFDは、組織の直接操業やバリューチェーンにおける活動場所について、優先的に対応すべき地域を特定することを求めています。優先地域は、次の2つの側面から検討することが推奨されています。
- 生態学的に要注意と考えられる地域(生物多様性上の要注意地域)
- 組織が重要と特定した地域(事業上の重要地域)
生物多様性への依存と影響が大きいと推測される「製造拠点」、従業員が多く環境負荷が高いと想定される「事業拠点 」「開発拠点」を対象として、優先地域の検討を実施しました。
評価対象拠点
| 日本 |
|
| 米国 | Anritsu Company(カリフォルニア州)、Anritsu Infivis Inc.(イリノイ州) |
| 英国 | Anritsu EMEA Limited(ベッドフォードシャー) |
| ルーマニア | Anritsu Solutions S.R.L(ブカレスト) |
| 中国 | Anritsu Industrial Systems (Shanghai) Co., Ltd.(上海) |
| タイ | Anritsu Infivis (THAILAND) Co., Ltd.(チョンブリー) |
生物多様性上の要注意地域の分析
要注意地域は、TNFDの定義とそれに対応した評価指標を参考に、以下の内容について評価を行いました。
評価指標
| 要注意地域の定義 | 評価指標 |
|---|---|
| 生物多様性の重要性 | 以下の指標を総合的に評価
|
| 生態系の十全性※6 | 以下の指標を総合的に評価
|
| 生態系サービス※7供給の重要性 | 先住民や地域コミュニティなど生態系サービスの供給において重要なエリアの有無 |
| 水の物理的リスク | 以下の指標の高さを個別に評価
|
※6 生態系の十全性:生態系の構成、構造、機能が自然の変動範囲内で健全に保たれている程度
※7 生態系サービス:人類が生態系から得られる恵み。具体的には、食料や水の供給、水質浄化、土壌浸食の抑制など
※8 保護地域・生物多様性重要地域 :保護地域は、国立公園のように法的または制度などにより保護されているエリア。生物多様性重要地域(Key Biodiversity Area:KBA)は、科学に基づいて生物多様性上の重要性が認識されているエリア
※9 STAR-T指標:世界的な種の絶滅リスクの低減に対する潜在的な貢献を示す指標。この指標が高いことは、多くの絶滅危惧種などの生息を支える地域であることを示す
※10 Biodiversity intactness index(生物多様性完全度指数):人間の活動(土地の改変など)の影響を受けていない自然の状態と比較して、どれほどの生物種が残っているかを示す指標
※11 水ストレス:水の利用可能性が低いエリアを示す指標
※12 浸水深:MS&ADインターリスク総研株式会社・東京大学・芝浦工業大学が共同開発した洪水リスクファインダーを用い、2020年の気候における、100年に1度の確率で生じる洪水での浸水深分布を指標とした。ここでの浸水深は河川からあふれた洪水が発生した際の地面から水面までの高さを示す
各評価指標の評価結果は以下のとおりです。
※ 空欄は該当する結果がない、 または評価結果がMediumより低いことを示す
■ 評価結果の概要
神奈川県厚木市に位置する厚木地区は、保護区である神奈川県立丹沢大山自然公園の5㎞圏内にあります。 米国カリフォルニア州モーガンヒルにあるAnritsu CompanyはSTAR-T指標から、多くの絶滅危惧種などの生息を支える地域に該当します。厚木地区と東北地区の東北アンリツ第二工場周辺では樹木被覆率の顕著な減少が発生していることが確認されました。
水の物理的リスクでは、製造拠点で洪水被害を受けた経験を踏まえ、河川洪水リスクと浸水深に着目しました。その結果、Anritsu Company、中国、タイの製造拠点の洪水リスクが高く、河川に近接する東北地区の第一工場と鶴岡地区で洪水時の浸水深が高いことがわかりました。
厚木地区からみた大山
Anritsu Companyの緑地
事業上の重要地域の分析
事業上の重要地域は、主に以下の視点で評価しました。
- 売上高や従業員数、事業運営上の重要拠点
- 環境依存度の高さ、環境に与える負荷の大きさ
- 土地利用面積の大きさ
売上高や従業員数の多い拠点には、開発や製造の部門を持つ厚木地区、東北地区(東北アンリツ第二工場)、Anritsu Companyが該当しました。事業運営上の重要拠点としては、グループの本社がある厚木地区を選定しました。
環境依存度の高さ、環境に与える負荷の大きさは、「水使用量」「温室効果ガス排出量」「排水量」「廃棄物排出量」を指標として評価しました。この結果は売上高や従業員数の多さに比例し、上記同様に厚木地区、東北地区(東北アンリツ第二工場)、Anritsu Company の3拠点が該当しました。
これらの3拠点は、土地利用面積が大きいため、地域の生物多様性に与える影響や波及効果が大きいと考えられます。
優先する事業拠点
生物多様性上の要注意地域の分析、および事業上の重要地域の分析の結果を検討した結果、生物多様性の重要性や生態系の十全性の評価が高く、かつ事業上の重要性も高い厚木地区、東北地区の東北アンリツ(株)第二工場、米国Anritsu Companyを対応を優先する拠点としました。
対応を優先する拠点
| 対応を優先する拠点 | 厚木地区 |
| 東北地区(東北アンリツ(株)第二工場) | |
| Anritsu Company |